ツイッター軍政監部
契約内容について(その1)
永井は、慰安婦の募集にあたって警察の取り調べを受けた貸座敷業者の大内某の所持していた契約書の内容及び就労条件について、軍あるいは領事館の指導によるものであるという主張をしている。その主張の細部は次のとおりである。
問題なのは年齢条項である。16才から30才という条件は、「18歳未満は娼妓たることを得ず」と定めた娼妓取締規則に完全に違反し、満17才未満の娼妓稼業を禁じた朝鮮や台湾の「貸座敷娼妓取締規則」にも抵触する。さらに、満21才未満の女性に売春をさせることを禁じた「婦人及児童の売買禁止に関する国際条約」(1925年批准)ともまったく相容れない。大内の活動は明らかに違法な募集活動と言わざるをえない。その点は警察もよく認識していたと見え、群馬県警が入手し、内務省に送付した上記契約条件の年齢条項には、警察側がつけたと思われる傍線が付されている。この契約条件が、上海での軍・総領事館協議において承認されたものなのかどうか、そこが議論のポイントの一つとなろう。私見では、この契約条件がまったく大内の独断で作成されたとはとても思えない。何らかの形で軍ないし総領事館との間で契約条件について協議がなされていたと思われる。たとえそれが契約条件は業者に任せるとの諒解だったとしても、である。
一方、永井は同論文で『他の一件は、宮城県名取郡在住の周旋業者宛に、福島県平市の同業者から「上海派遣軍内陸軍慰安所ニ於ル酌婦トシテ年齢二十歳以上三十五歳迄ノ女子ヲ前借金六百円ニテ約三十名位ノ周旋方」を依頼する葉書が届いたというもので、警察は周旋業者の意向を内偵し、本人に周旋の意志のないのを確認させている。こちらでは、年齢条件が大内の条件とは異なる。』として、同一の業者が「婦人及児童の売買禁止に関する国際条約」の年齢条項にわずかに反するだけの(同条約改正前の1910年の条約においては年齢条項は20歳以上であった)条件で募集を行っていた事を明らかにしている。
貸座敷業者の大内が所持していた「婦人及児童の人身売買を禁止する国際条約」に抵触する年齢を含む契約条件が存在する一方、その契約条件と異なる契約内容を大内自身が示していた事は、契約内容については大内の恣意であり、統一された準拠が存在しなかった事を示しており、永井の言う「この契約条件がまったく大内の独断で作成されたとはとても思えない。何らかの形で軍ないし総領事館との間で契約条件について協議がなされていたと思われる。」という永井の「私見」の妥当性に疑問符をつけるものである。
永井の主張は、前述の「野戦酒保規定」の条文解釈同様、往々にしてこのような薄弱な根拠、恣意的な事象の取捨選択により「軍・官憲の関与」を殊更に印象づけようとする操作が散見されるのである。