李亀烈著・南永昌訳 『失われた朝鮮文化――日本侵略下の韓国文化財秘話』(新泉社、1993)について †平成17年8月5日
【解題】李亀烈(著)・南永昌(訳)『失われた朝鮮文化――日本侵略下の韓国文化財秘話』(新泉社)1993(第1刷) 本文286頁(目次・訳者解説含む)、口絵4頁。 原書は『韓国文化財秘話』(ソウル・韓国美術出版社)1973年。1972年5月から11月まで、ソウル新聞の特集企画記事として全100回にわたり掲載された内容を、まとめたものである。筆者の執筆意図は、「近代100年の間、韓国の文化財が経てきた栄辱と受難の歴史を、過去の記録と信憑性のある目撃談でつづり、そのありさまを読者とともにたどってみる」ことにあるとする。 訳者は、定言的三段論法を安易に「臨場感にあふれる叙述」と評するなど、学究的な点から見れば、問題は多い。また、原書は1973年出版にもかからわず、p.189に「「小倉コレクション」は、1981年7月に、そのすべてが東京国立博物館に「寄贈」されてしまった。」、p.197に「1986年2月に出版した『朝鮮古代遺跡の遍歴』という回顧談のなかで」などと、いずれも注釈を付さずに「訳出」されており、「訳者解説」部分以外にも、単なる翻訳者に止まらぬ作業を行っているようである。くわえて、「訳者が原典にあたり、正確を期した」とする引用に関しても、断り無く省略を行う、或いは句読点を改める、更には文脈と乖離した引用を許容するなどの例が多々見られる。 出典表記に関しては再録書のみを提示した可能性も無くは無いが、いずれにせよ、その原典確認・翻訳作業を安易に信ずるべきではあるまい。 |