**総督の書斎 [#v39c7feb]


***ひこうぐも 撃墜王小林照彦陸軍少佐の航跡(光人社) [#q69579b2]

~飛行第244戦隊という日本陸軍の有名な戦闘機部隊がある。尾翼を深紅に塗り、胴体に鮮やかなストライプを描いた派手な塗装の3式戦闘機「飛燕」の図やプラモデルを見たことがある人も多いであろう。その飛燕の操縦者が第244戦隊長小林少佐である。

 その小林少佐(殉職時:航空自衛隊3等空佐)の未亡人である千恵子氏が書いた手記である。非常に厚手の文庫本であるが、極めて美しい日本語で書かれており、読みやすい本である。無論、ここに語られるのは千恵子氏の記憶と小林少佐と千恵子氏の日記によるものであって、1次史料としての価値は乏しい。しかしながら、そこに描かれる戦時中の風景は、戦後のマスコミで語られるような暗黒の時代ではなく、意外なほどに明るく、楽しげな日常生活の光景である。なかでも特筆すべきは小林少佐の激しい「嫁萌え」と千恵子氏の「ダンナ萌え」である。小林少佐自らが「女一人にうつつを抜かし・・・(中略)時局を思え、何ぞ、馬鹿。馬鹿。」と日記に書き付けるほどの「萌え」が出色。

 これだけでも一読の価値があるが、やはり総督府員としては、その書に書き記された朝鮮半島の光景である。多くの朝鮮人が下関の港で釜山行きの乗船待ちをする光景や、釜山の港で朝鮮人官憲の横暴な態度に憤慨し、駅の不潔に閉口する、巷間言われるような「強制連行で祖国に帰れなかった韓国人」の姿も、「日本の官憲に虐げられる朝鮮人」の姿もない。千恵子氏のたおやかな言葉にのせられた激しい嫌悪感が伝わる部分は見逃せない。

 あくまでオーラルヒストリーとして、その時代を生きた者の「感覚」を知るために読みたい本である。


トップ   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS